その第一弾としてラインナップされたのはヤシコン時代の標準レンズとしてコンタックスの顔でもあったPlanar T* 50/1.4です。今回はFマウント用とM42マウント用が用意されていますが、中身はほぼ当時のP50/1.4と同じもののようです。実際にあまり手を加えるところのない完成されたものがあると思います。
以前下記ページに「RTS前夜」としてイコン時代からヤシカRTSまでの流れを書きました。
http://www.asahi-net.or.jp/~eg3y-ssk/photo/tstar/history/zeiss2.htm
上に書いたようにいくつかのツァイスのレンズはContarexのラインナップからヤシコンに受け継がれています。それらは主にP85/1.4やD25/2.8のようにレックスのレンズとしても比較的新しいものです
しかしPlanar T* 50/1.4はヤシコン発売の初期からありましたがレックスのラインにはなかったレンズでヤシカ・コンタックスで新たに加わったものです。このためにアサヒやヤシカの設計ではないかという話もよく噂されます。
しかし、ここにもうひとつの仮説があります。
ここでもう一度前掲のページを読み返していただくと、いまの状況ともう一点共通することを見つけられると思います。それは本家(昔はイコン/今は京セラ)のカメラボディが絶えた後にドイツ国内の小メーカーにカメラボディを委託しようとした点です。いまはそれがBraunという会社であり、70年当時はWeberという会社でした。Weberは主業務はスライド機器だったようですが、いろいろとカメラメーカーの下請けもやっていたようです。ツァイスはドイツ国内の精密機器メーカーとのつながりはとても広範囲で強いので、とりあえずこうしたメーカーにつなぎを頼んだというのは納得できます。
ここで1970年当時にかえってみてWeberというパズルのピースがツァイスレンズの流れにどうはまるかを考えて見ます。
まずツァイスが1971年にイコンのカメラ・レンズ資産の整理を決定します。そしてWeberが72年にツァイスからこのカメラの打診を受けておそらく一年かけてその検討をする(72-73頃)、そしておそらくは73年ころに製品化を断念したのだと思います。するとヤシカが74年のフォトキナにむけてほぼ一年かけてRTSを開発したという事実(73-74年頃)と見事にオーバーラップされます。そして1975年にヤシカ・コンタックスシステムが発売されたわけです。
この仮説はヤシカとイコンを結ぶミッシングリンクが発見されれば裏付けることが出来ます。
そのミッシングリンクがこのWeber SL75用のPlanar T* 50/1.4です。
RTSとContarex(SL75レンズ装着)
それを入手されたsplit_imageさんからレンズの写真と比較用のレックスの写真を提供いただきました。また比較メモもいただきましたのでそれを用いて下記の文を記しました。
(この記事の写真の著作権はsplit_imageさんにあります)
SL75用 Planar 50/1.4の外観とマウント面
レンズを見ると残念なことに光学系は抜け落ちています。ただしヘリコイドはちゃんと回転しAE連動機構も動きます。また仕上げを見ると削り出しのバイト痕など皆無なので、完成品レベルの美しさです。
Carl Zeiss/West Germany銘で5705110のシリアルがあります。黒クローム仕上げでサイド文字の書体もヤシコン用の初期型AE-Gレンズと雰囲気が似ていますが、メートル表示に併記されたフィート表示はレモンイエローで色刺しされています。
1975年前後に生まれたRolleiflex SL35M、Rolleiflex SL2000F (発売は 1981年にずれ込んだ)、それにCONTAX RTSのレンズは同じ鏡胴デザインを採用していましたが、それと一貫したデザイン、仕上げ、刻印になっているようです。
ヤシコン用P50とSL75用P50の比較
ヤシコン用のP50/1.4(左)と比べてみると前玉を抑えるリングの内径も同じようですが、表面の刻印文字は大きさが異なります。 距離は0.45m〜∞でこれも同じです。
一方で絞りリングは無く、マウントはYCではなくレックスと同じです。単純にひっくり返して背比べすると、マウント部分までの背丈やヘリ コイドの繰り出し量もほぼ同じです。つまり外観から見るだけでは、ヤシコン のP50/1.4にレックスのマウントを付けたものように見えます。
実際に試してみるとコンタレックスSEにも装着できるようですのでレックスマウントであるのは間違いないと思います。ただしこのAE連動機構は爪の位置と形状が異なるために、絞りダイアルには連動しません。オス型なのでむしろRTSのものに似ているように見えます。
そこで次にContarexレンズの代表であるPlanar 55/1.4と比べてみます。
Contarex用P55(左)とSL75用P50(右)のマウント面
外周のクロームメッキのマウントパッド部分はほぼ同じと見て良さそうですが、内側に黒く塗られたAE連動部分については異なります。ともに赤いポイントを上にすると、右のレンズではフラットなリングにネジ止めされた爪が14時の位置に突きだしていますが、左のレンズでは例の方持ち支持のリング状の板羽根が浮き上がっていて、10時の位置に四角い穴が空いています。このピンの位置と形状が異なるため、Contarexにマウントはできるが連動はしません。
なお前掲のKucの本にもやはりS135と思われるレンズが出てきますが、このP50と同様にYCの鏡筒とレックスのマウントをあわせたようなデザインになっているという共通点があります。
ヤシコンだけでなくひとつQBMとの関係というのも考慮しなければなりませんが、これらの点からこのWeber用のレンズがヤシコンとイコンの流れを結ぶ線上にあるということは推測できます。
ひとつのレンズから当時の全てを類推することは容易ではないかもしれません。しかしいまのやや混沌としたカメラ界を考えるに、70年当時のやはり混沌としたカメラ界というものに思いを馳せるのは興味深いことではないでしょうか。


Weber某といふカメラですが、かのツァイスレンズ番号ティーレ本vol.3、オーバーコヘン編にWeber用にレンズが作られたことが出ております。
既知かもしれませんが、コメントまで。
そうですか、その本に書いてあるなら信頼性は高そうですね!